トルコ・インドで株分け植毛が多いワケ|毛根構造とビジネス戦略の両面から解説
植毛手術を調べていると、「トルコでは5,000株以上を一度に移植」「インドで6,000株の大規模手術」といった広告を目にすることがあります。
一方で、日本では2,000〜3,000株程度が標準とされることが多く、「なぜ海外ではこんなに株数が多いのだろう?」と疑問に感じた方も多いでしょう。
その背景には、毛根構造の人種差と植毛市場の商業的な事情という2つの要素が関係しています。
つまり、単に技術力が高いからでも、患者の毛量が圧倒的に多いからでもなく、「株数を稼ぐ」ことに向いた条件が揃っているのです。
この記事では、トルコ・インドで株分け植毛が多い理由を、毛根構造とビジネス戦略の両面からわかりやすく解説します。
また、日本人に株分けが向きにくい理由や、株分けの適性を見極めるためのポイントも紹介します。
トルコ・インドで広がる「株分け植毛」
近年、トルコやインドでは**「株分け(グラフトスプリッティング)植毛」**と呼ばれる手法が広く行われています。
株分けとは、1つのフォリキュラーユニット(FU)を分割して複数の移植株にする技術のことです。
たとえば1株に3本の毛が含まれていれば、それを1本×3株に分けて移植します。
この方法を使うと、見かけ上の移植株数を大きく増やせるため、
「5,000株」「6,000株」といったインパクトのある数字で宣伝しやすいのが特徴です。
さらに、トルコ・インドは世界的にも植毛件数が多く、低価格競争が激しい市場であるため、
少ないドナーから多くの株数を確保できる株分けが重宝されるようになりました。
つまり、株分け植毛が盛んな背景には、医療技術的な側面だけでなく市場構造的な要因もあるのです。
株分けを後押しする毛根構造の人種差
ただし、株分けがトルコやインドで盛んな背景には、毛根構造の人種差という生物学的要素もあります。
植毛で扱う「株」はフォリキュラーユニット(Follicular Unit, FU)と呼ばれ、1つのFUには1〜4本程度の毛根が含まれます。
そして研究によると、地域・民族によってFUあたりの毛本数に差があることが分かっています。
- 韓国人(後頭):平均1.9本/FU
Lee HJ et al., J Am Acad Dermatol 2002 - 台湾人(後頭):平均2.27本/FU
Chen WC et al., Dermatol Surg 2010 - 南インド・タミル人(後頭):平均2.65本/FU
Sundararaman S et al., Indian J Dermatol Venereol Leprol 2022 - コーカソイド(欧州):約2.5〜2.7本/FU
Rakowska A et al., Atlas of Trichoscopy 2012
このように、中東・南アジア(トルコ・インド)やヨーロッパでは平均2.5前後、東アジア(日本・韓国・中国)では1.8〜2.2本とされ、
東アジアより15〜30%ほど多いという差があります。
そのため、トルコやインドではFUを分割しても1株あたりの毛数が残りやすく、密度を保ちやすいと考えられます。

🌍 なぜ地域で毛根構造に差があるのか?
この人種差は、長い時間をかけた気候環境への進化的適応の結果だと考えられています【Loussouarn G et al., Eur J Dermatol 2016】。
- 中東・南アジア(トルコ・インドなど)
→ 紫外線が強く乾燥した地域 → 密集した毛で頭皮を直射日光から守る - 東アジア(日本・韓国・中国)
→ 森林の多い湿潤環境 → 少数だが太く直毛な毛で外傷や湿気から守る - ヨーロッパ北部
→ 紫外線が弱い寒冷地 → 細く柔らかい毛で保温性を高める
つまり、毛本数や毛径の違いは、祖先が暮らした環境への適応の名残であり、
この違いが株分けとの相性にも影響していると考えられるのです。

商業的要因と日本人との対比
さらに重要なのが、商業的な要因です。
トルコやインドは世界でも有数の植毛大国であり、低価格と大量株数で国際的な競争をしている市場です。
このような環境では、「株数が多い=価値がある」と患者に感じさせることが非常に重要になります。
株分けによって見かけ上の株数を増やせば、「5,000株をこの価格で」という強い広告訴求が可能になります。
つまり、株分けは医療的メリットだけでなく、マーケティング的メリットも大きいのです。
このことから、株分けの普及には経済的インセンティブが強く関与していると考えられます。
欧米では、これを強く非難しているサイトも散見されます。

一方で、日本人を含む東アジア系はFUあたり毛本数が少なく(1.8〜2.2本)、毛径が太く直毛です。
このため株分けを行うと1株あたりの毛数がさらに減り、密度が低下しやすいうえに、
太い毛を無理に分割することで毛根にダメージが入り、生着率が低下するリスクも高まります。
そのため、日本では株分けではなくFUをそのまま移植する方法(株温存法)が主流です。
つまり、「株数=価値」ではなく「デザイン性と生着率」が最重視されるという点で、
トルコ・インドとは根本的な考え方が異なっています。
株分けの向き不向きを理解して選ぶことが大切
このように、トルコ・インドで株分け植毛が多い背景には毛根構造の人種差と市場構造の両方が関係しています。
しかし、株分けがすべての人に適しているわけではありません。
実際には、同じ「1,000株」でも人種や毛質によって含まれる毛の本数は異なるため、
株数だけで判断すると**「株は多いのにスカスカに見える」**という結果になりかねません。
さらに、株分けで毛根にダメージが入れば、本来生えていたはずの毛まで定着しないというリスクもあります。
そのため、自分の毛質や毛根構造を踏まえたうえで最適な手法を選ぶことが非常に重要です。
株分けのリスクについては、以下の記事にまとめてありますので、ご参照ください。

つまり、「トルコ・インドでは株分けが多い=自分にも向いている」とは限りません。
生物学的背景と商業的背景を理解したうえで、慎重に判断することが成功の鍵となります。
まとめ
- トルコ・インド(中東・南アジア系)は**FUあたり毛本数がやや多く(約2.5前後)**株分けと相性が良い
- 日本(東アジア系)は毛本数が少なく(約1.8〜2.2)・太い毛が多いため、株分けで密度低下や生着率低下を起こしやすい
- 株分けが盛んなのは、毛根構造の差だけでなく市場競争・商業的要因も大きい
- 株分けは「合う人」と「合わない人」がいるため、慎重な見極めが必要

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