【FUE植毛】株分けVSそのまま移植|定着率が変わる理由と後悔しない選び方
「せっかく高額な費用をかけて植毛するなら、できるだけ髪の毛を無駄にしたくない」「1本でも多く定着してほしい」
──そんな思いをお持ちの方は多いのではないでしょうか。
植毛にはいくつかの手法があります。その中で、今回は現在主流となっている植毛技術であるFUE(Follicular Unit Extraction)法における「株をそのまま移植する」か「株分けして移植する」かによって、生着率がどう変わるのかを解説します。
少し専門的な内容ですが、しっかり根拠に基づいてわかりやすくお伝えします。
そもそもFUEとは?
FUEとは、後頭部などのドナー部位から**毛包単位(フォリキュラー・ユニット)**を一つひとつ丁寧にくり抜いて採取し、移植したい部分(前頭部や頭頂部)に植え付ける技術です。
このフォリキュラー・ユニットは、通常1~4本程度の毛が自然な束になって生えている単位で、髪の毛の「自然な見た目」を左右する大切な構造です。

「そのまま移植」vs「株分けして移植」って?
● そのまま移植:
採取したFU(フォリキュラー・ユニット:円筒状の周囲組織が付属した毛根)を、採取したまま手を加えずに迅速にそのままの形で移植します。

● 株分けして移植:
1つのユニットを人工的にメスや器具で分割し、たとえば3本毛のユニットを1本毛×3に分けて移植します。
これは「移植株数を増やす」「1本毛を得る」目的で行われることがあります。


株分け作業のリスク
植毛の“株分け”は、見た目の本数を増やす一方で、毛包に余計なダメージを積み重ねやすい手技です。代表的なのは、毛包を一部切ってしまう切断損傷(transection)、ピンセットや器具でつぶしてしまう圧挫損傷(crush)、引っぱりやねじれによる牽引・剪断損傷(traction/shear)、周囲の保護組織を削ぎ落として“裸”にしてしまう脱鞘・裸化(denudation)など。これらが重なるほど、毛包は乾燥(desiccation)や温度ストレスに弱くなり、体外でのわずかな時間でもダメージが増幅します。
さらに、体外にある間は毛包が酸素・栄養から切り離されるため虚血—再灌流障害(ischemia–reperfusion)が起こりやすく、保持液とのミスマッチで浸透圧/pHショックも加わります。とくに再生の“心臓部”である**バルジ(幹細胞ニッチ)**を傷めると、発毛の太さ・本数・立ち上がりのすべてが落ちやすくなります。
要するに、株分けは切断や圧挫といった“見える損傷”だけでなく、さらに乾燥・温度・虚血・浸透圧といった“見えないストレス”まで呼び込み、総和として生着率を下げる方向に働く——これが私の科学的かつ経験的から検討を重ねた結論です。

科学的エビデンスも存在
実際の研究でも、株分けによるリスクは確認されています。

✅ Kim JC(2013年)
株分けされたグラフトは、分割されていないグラフトと比較して10〜15%程度生着率が低下した。特に3本毛のユニットを1本ずつに分割した場合、その傾向が顕著だった。
✅ Harris JA(2006年)
FUEにおける最良の生着成績は、ユニット構造を維持した状態での移植により得られた。トリミングや分割は、損失を招くと報告。
✅ Bernstein & Rassman(2002年)
フォリキュラー・ユニットの自然な構造を維持することで、見た目の自然さだけでなく生着率の向上にもつながると示唆。
◆なぜ「株分け」を行う手技があるのか?
ではなぜあえて株分け(グラフトの分割)を行うのでしょうか?その主な理由は以下のとおりです。

● 生え際の前列に、1本毛だけを並べたいが、直接1本毛を採取する技術がない場合
生え際のデザインでは、より自然な仕上がりを目指して、細くて繊細な1本毛が求められます。ところが、FUEで直接1本毛のみを採取する技術は難易度が高いため、その場合、複数本毛のグラフトを人工的に分割して1本毛にするという方法がとられます。
🔹 私は、生着率の低下を防ぐため、分割せずに、最初から1本毛のみをFUEで直接採取し、そのまま迅速に植え込む方法を基本としています。
🔹 特に軟毛の1本毛を精確に採取するには、高度な技術と豊富な経験が必要であり、これは術者の腕の差が出る部分でもあります。
● ドナー部が極端に少ない場合や、採取が困難なケース
皮膚の状態や毛根の弱さなどにより、スムーズに十分な株数が採取できない場合、限られたグラフトを分割して見かけの本数を増やす戦略がとられることがあります。
🔹 しかし、こうしたケースでは毛根そのものが弱っていることが多く、分割によるダメージが重なり、生着率がさらに低下するリスクがあります。
🔹 当院では、このような難易度の高い症例においても、術前に十分な計画を立て、株分けせずに高い生着率を確保できる方法を選択しています。
🔹 なお、極めてまれに予定の株数が採取できなかった場合には、無理に株分けをして数を稼ぐようなことはせず、その分の費用を必ず返金する制度を導入しております。
→ 安易な株分けはせず、「質」を最優先とした対応を徹底しています。
生え際には必ず「軟毛の1本毛」が必要なのか?
植毛業界ではしばしば「生え際には軟毛の1本毛を並べなければ不自然になる」といった論調があります。しかし、実際の患者様の声を聞くと、必ずしも全員がそのような繊細なデザインを求めているわけではありません。
一方で、繊細さとボリューム感は、どうしても相反する部分があり、その判断はしっかりとした経験と患者様とのコミュニケーションより引き出される事柄です。
実際には、「よりしっかりとした毛でラインを保ちたい」「透け感を抑えて前から見たときに存在感が欲しい」という声も多く聞かれます。
🔹 私自身も20年ほど前に植毛を受けた経験がありますが、当時植えられた細い毛の一部は退縮し、現在の生え際には2本毛が混じっている部分もあります。
🔹それが不自然に見えることはなく、むしろ薄く見える部分のほうが気になり、もう少しボリュームが欲しいと感じるほどです。
もちろん、女性の方や美容的なこだわりの強い方に対しては、襟足などから軟毛の1本毛を直接採取し傷つけず植えこむことにより、生着率の高く、自然なラインを作る技術も提供しています。

🔹 つまり、「すべての患者様に一律の手法を押し付けるのではなく、ご希望や毛質に応じて最適な方法を柔軟に選択する」ことが大切だと考えています。
私は、患者様のご希望と見た目の自然さのバランスを取りながら、最大限の生着率を維持できる方法を提供しています。
◆ まとめ
項目 | そのまま移植 | 株分けして移植 |
---|---|---|
生着率 | 高い(90〜95%) | 低下(50〜85%) |
構造の保護 | 良好 | 脆弱 |
損傷リスク | 低い | 高い |
手術時間 | 短め | 長くなる傾向 |
◆ 最後に
植毛は「どの医師が行うか」も大切ですが、「どんな手法で行うか」によっても結果が大きく変わります。
一見すると細かいテクニックの違いのように思えるかもしれませんが、生着率や見た目の自然さに明確な差が出る重要な要素です。
今後FUE植毛を検討されている方は、カウンセリング時に「そのままのグラフトで移植してくれるのか?株分けはどこまで行うのか?」を確認してみてください。
科学的根拠とともに、納得できる施術を選びましょう。
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