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【後編】薄毛と生活習慣病(メタボ)

【後編】なぜ薄毛と生活習慣病(メタボリックシンドローム)はつながるのか?――血管・脂質・ホルモンから考える


■ 前編のおさらい

前編では、世界各国の研究を紹介し、AGA(男性型脱毛症)と生活習慣病(メタボや血圧・血糖・脂質異常)に関連があることがわかりました。

ただし、「メタボの診断そのもの」には差が出ないこともある一方で、腹囲・血糖・HDL(善玉コレステロール)といった「構成因子レベル」では差が出やすい、という傾向が見えました。

では、なぜ髪と体の病気が関係するのか?
ここからは最新の研究をもとに、その「仕組み」について解説します。


目次

髪と血管をつなぐ“体からの信号”

2023年の研究(Dawoudら)では、AGAの人を調べたところ、血液中のホルモンの働きが乱れている可能性が見つかりました。

本来、運動などで分泌されて「血糖や脂肪をコントロールする」役割を持つホルモンが、AGAの人では多く出ているのに効きにくい=抵抗性を起こしていると考えられたのです。

さらにこの抵抗性は、**脂質異常や首の血管の厚み(CIMT:動脈硬化のサイン)**と一緒に見られることが報告されています。

「Higher serum irisin was significantly detected in AGA patients (p < 0.001).」
(Dawoud NM, et al. J Cosmet Dermatol. 2023;22(9):2584–2597. doi:10.1111/jocd.15760)

💡つまり、髪の毛が抜けやすい人では、体からの“健康を守る信号”がうまく届いていない可能性があり、それが血管や代謝異常と重なっているのです。


血液の“脂(あぶら)”と薄毛の因果関係

2024年の研究(Biら)は、遺伝子データを使って「脂質とAGAの関係」を調べました。

結果は明確で👇

  • 悪玉コレステロール(LDL)
  • 中性脂肪を運ぶ脂(VLDL)
  • ApoB(血管を詰まらせるたんぱく質)

これらが多い人は、AGAになりやすい**“原因”を持っている**ことが示されました。

「Apolipoprotein B (ApoB), low-density lipoprotein (LDL), and very-low-density lipoprotein (VLDL) had a causal relationship with AGA.」
(Bi L, et al. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2024;17:409–416. doi:10.2147/CCID.S445453)

💡つまり、脂質のバランスが悪いことは、単なる関連ではなくAGAを起こす要因そのものかもしれないのです。


過去から繰り返し報告されてきた「AGAと生活習慣病」

2018年の総説(Lieら)は、過去の多くの研究を整理し、次のようにまとめています👇

  • 1970年代から、AGAと代謝異常や心臓病の関係は報告されている
  • 特に若くしてAGAが出る人では、この傾向が強い
  • 医療現場では「AGA患者には生活習慣病のチェックを勧める」意見もある

出典:Lie C, et al. Clin Dermatol. 2018;36(1):54–61. doi:10.1016/j.clindermatol.2017.09.009

💡AGAは「見た目の問題」にとどまらず、体の健康を見直すサインとして考えるべきだとされています。


前編・後編から見えてきたこと

これまでの研究を踏まえると、特に以下の人は注意が必要です👇

  • 若くしてAGAが始まった人
    → 血管や代謝の異常が隠れている可能性がある
  • 血液検査で脂質異常がある人
    → LDL・VLDL・ApoBの上昇はAGAとの因果関係が示されている
  • AGAと生活習慣病が重なっている人
    → 心臓病や糖尿病のリスクが上乗せされやすい

植毛医としてのコメント

私は日々、植毛手術を行う中で、油の沈着を疑う粘調な皮膚を持たれた患者様にしばしば遭遇します。これは血液中の脂質異常や代謝の乱れと関係していると考えられます。

こうした状態の皮膚では、組織全体が粘っこくなり、次のような問題が手術中に起こりやすくなります👇

  • 組織がスパッと切れず、刃を入れたときに毛根の角度が変化し、毛根損傷のリスクが上がる。
  • 刃の切れ味が早く悪くなり、皮膚を余計に圧迫してしまい、結果として皮膚が歪み、毛根を傷つけやすくなる。

もちろん、私は一定数このような方々がいらっしゃることは、知識や経験に基づき把握しておりますので、刃の挿入方法の工夫や、回転数の頻回な調整、刃の研ぎ方の工夫や、刃の頻回な交換など、様々なテクニックを駆使します。こうした難しい状況においても、生着率をできるだけ高め、患者様のご期待に応えられるよう、日々技術の研鑽を怠らず、工夫と改善を積み重ねています。

このような皮膚をお持ちの方におかれましては、過剰に安価な植毛施設を選択肢に入れている方は注意が必要です。
十分な技術や経験を持つ術者がいないことや、時間的な制約で慎重に進められないこと、コスト的な面で質の低い刃を交換もせずに使い続ける、といった状況が重なれば、この「皮膚の油沈着によるリスク」は結果に直結してしまいます。

つまり、「体の脂質の状態」は植毛手術の質にも影響するのです。

■ 後編のまとめ:「髪は体の鏡」

今回の後編で見えたことは👇

  • 薄毛の人では、体のシグナルがうまく届かない状態があるかもしれない
  • 脂質の乱れはAGAの原因になりうると遺伝子研究で示された
  • AGAと生活習慣病の関係は昔から報告され、スクリーニング推奨の声もある

AGAは「単なる髪の悩み」ではなく、体からのSOSサインかもしれません。生活習慣病や脂質異常と関係があり、体の健康の問題と切り離せるものではありません。植毛を考えている方は、ぜひ「皮膚の状態」と「全身の健康状態」の両方に目を向けていただきたいと思います。

そして植毛手術におきましては、特に多少なりとも自覚がある方は、技術や器具等しっかり信頼のおける施設での施術をお勧めいたします。

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Yuya Narui
植毛医歴11年、毛髪の探求から身体の摂理を学び、毛髪・身体・自然の相似性に魅せられて学びの道を歩んでいます。
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この記事を書いた人

植毛医歴11年、毛髪の探求から身体の摂理を学び、毛髪・身体・自然の相似性に魅せられて学びの道を歩んでいます。

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