──スリット vs ホールの科学的比較から見える真実
植毛技術は年々進歩し、かつて問題とされた「コブルストーン現象」や「ディンプル・パッカリング」をどう回避するかが大きなテーマでした。
現在では 0.6mm以下のマイクロホールを用いることで、自然な見た目と高い生着率を同時に実現できることが明らかになってきています。
スリット法のメリットと限界
スリット法は、大径ホールで起きやすかったコブルストーンを避ける目的で普及しました。
しかしその一方で、スリット特有の弱点があります。
- ディンプル(小さなくぼみ)
- パッカリング(皮膚のつっぱり)
これは、切り込みの隙間に表皮が潜り込み、毛周囲で皮膚が沈み込むことで生じます。さらに、スリットに合わせてグラフトを削ぐなどの操作を加えると、毛包の微細組織が損傷し、生着率の低下を招く恐れがあります。
コブルストーンはなぜ起こるのか?
「グラフトが皮膚表面から飛び出す」ことが主因です。
かつて1.5mm以上の大径ホールを使っていた時代には、頭皮がゴツゴツする症例が多く報告されました。
しかし現代の0.6mm〜0.5mmのマイクロホールでは、孔とグラフトのサイズが一致するため、突出は起こらず、コブルストーンのリスクはほぼ消失します。
文献エビデンス ✅
- ✅ Bernstein & Rassman(2002年)
フォリキュラー・ユニットの自然な構造を維持することで、見た目の自然さだけでなく生着率の向上にもつながると示唆。 - ✅ Harris(2006年)
コブルストーンは「移植片の突出」が主因であり、グラフトサイズや周囲皮膚との整合性が重要と指摘。 - ✅ Kim JC(2013年)
大径ホールでの移植ではコブルストーンが臨床的に顕著になると報告。 - ✅ ISHRS ガイドライン(2020年)
コブルストーンやピッティングを防ぐには「epidermal cap を最小化し、グラフトを皮膚と面一に置くこと」が重要と明記。 - ✅ JPRAS Open(2023年, 半側比較試験)
0.65mmパンチによるホール vs 18Gスリットを比較し、生着率・仕上がりに差がないことを確認。コブルストーンの報告なし。 - ✅ van Geel(2001年, 皮膚移植領域)
白斑治療におけるミニパンチ移植で、1.0mm以下の小径パンチではコブルストーンがほぼ起きないことを示した。径の小ささが最大の決定因子であることを裏付け。
小径化による欠点の解消
これらの文献が示す通り、かつて大径ホールで問題となっていたコブルストーンは、0.6mm以下の小径ホールではほぼ解消されています。
また、スリット法で懸念されるディンプルやパッカリングも、小径ホールでは生じにくく、結果として両者の欠点を克服することが可能になりました。
ホール法の利点
- 受容部作成がスムーズ
- パンチで正確かつ素早く孔を開けられるため、手術時間を短縮できる。
- グラフトに余計な処理が不要
- 皮膚を削ぐなどの加工が不要で、毛包周囲の微細組織を保護できる。
- その分、生着率が高まる。
- 表面の自然さ
- スリット法特有のディンプル(くぼみ)やパッカリング(皮膚のつっぱり)が起きにくい。
- 再現性が高い
- 孔のサイズとグラフトサイズを統一しやすく、術者間でも安定した結果が得られる。
結論
過去のホール法(1.5mm以上)はコブルストーンを生み、スリット法はディンプルやパッカリングの懸念を残しました。
しかし、0.6mm以下のマイクロホール法はこれらの欠点をすべて解消し、
- 自然な皮膚表面
- 高い生着率
- 再現性の高い手技
を同時に実現できる、現代植毛の最適解であるといえます。
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